Amazon薬局が国内に参入を検討しているという報道が出ています。製薬企業に勤める私にとっても、かなりのインパクトのあるニュースでした。よく、「調剤薬局の数は、コンビニよりも多い」と言われまます。私の住んでいる場所も、調剤薬局がありとあらゆるところにあります。Amazon薬局が参入することによって、調剤薬局の構図はどのように変わっていくのでしょうか。
<目次>
コロナによる受診控えにより、処方箋枚数減少
現在、コロナの影響もあり、患者の受診控えが起こっています。当然ながら、調剤薬局は、処方箋を受けて調剤することが主な収益源となります。処方箋が少ないと薬局の利益確保は難しいわけです。少し古いデータではありますが、倒産する薬局も増えつつあります。(おそらく22年度はさらに増加?)
<東京商工リサーチより>
また、厚労省は「コロナ禍でも適切に医療機関を受診しましょう」という啓発活動のために、次のような資材を作成し、国民に呼びかけています。現在のコロナの状況を考えると、回復には時間がかかると予想されます。受診控えによって患者の生命予後が悪化することが最大の問題です。受診方法をオンライン化し、自宅にいながら診療を受け、薬を受け取れるようになれば、受診控えの解消に寄与できます。その観点から、Amazonの参入が新たな変化をもたらすかもしれません。
「厚生労働省:上手な医療のかかり方」より
電子処方箋は、令和5年1月より運用が開始
国内では、2023年より電子処方箋の運用が開始されます。
厚生労働省HPより
また、メリットとして以下のようにも書かれています。
【病院側のメリット】
処方箋の事前送付が行えるようになるほか、丁寧な患者対応への注力や医療機関・薬局間の円滑なコミュニケーションにより、効果のある重複投薬等の抑制を行えるようになる。
【薬局側のメリット】
処方箋の内容の入力作業や、紙処方箋の保管が不要になることのほか、より丁寧な患者対応への注力や医療機関・薬局間のコミュニケーションを円滑に行えるようになる。
国としても、オンライン診療、さらにはマイナンバー登録も進めています。ご存じの通り、マイナンバーカードが健康保険証として利用できるようになりました。 マイナポータルを見れば、診療情報や薬剤情報、医療費なども閲覧可です。2023年4月からは、全ての医療機関・薬局において、マイナンバーカード保険証を利用して受診ができるようになりますが、病院、薬局の電子処方箋を受け入れるための環境整備が必要であり、当然ながら患者(特に高齢者など)の理解も必要となります。広く定着するまで、少し時間がかかると思いますが、国もその点は想定済。仕組みそのものを変え、オンライン診療が進むように、いろんな付加価値を付けてくる思われますので、医療機関や薬局もその大きな流れに乗り遅れないよう先取りした対策が必要になってきます。
調剤薬局の影響は?
医療業界は「生命関連業界」でもあり、多くの規制に縛られています。国も、規制緩和していく方向のようですが、いつもながらスピードが遅い!大胆に規制緩和してほしいものですね。なんとかオンライン化が進めたとしても、患者さんが来なければ利益はでません。薬局での支払いを安くして患者を呼び込むぞ!と思ってもそう簡単には安くできません。先発品から後発品に切り替えることは可能ですが、調剤基本料や技術料などの報酬点数は決まっており、価格で差別化することは難しいのが現状です。差別化していくとなれば、調剤薬局業務以外のサービス(付加価値)になると思われます。
薬局の利用に関する世論調査
薬局に対する世論調査というものがあります。これによると、「薬局薬剤師の説明や相談に満足しているのか」という問いには、約85%の患者さんが満足していました。しかし、健康サポート薬局については約91%の患者が知らなかったと回答しています。
令和4年2月14日 第1回薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ/薬局薬剤師に関する基礎資料(概要)より
また、「かかりつけ薬局・薬剤師を決めているか」という質問には、約8%という現状。その中でも、かかりつけ薬剤師を決めている患者の年齢は高齢の患者さんでした。
(70歳以上では約15%)
【かかりつけ薬剤師・薬局を決めていて良かったことは?」の質問に対して】
- 生活状況や習慣などを理解してくれた上で、薬についての説明をしてくれた(約52%)
- 服用している全ての薬の飲み合わせについて確認してくれたこと(約46%)
- 同じような薬が重複して処方された場合、医師に確認して薬の種類を減らしてくれた(14.3%)
やはり、患者さんに寄り添い、親切に対応することで、「ファン」につながるということですね。
令和4年2月14日 第1回薬局薬剤師の業務及び薬局の機能に関するワーキンググループ/薬局薬剤師に関する基礎資料(概要)より
最近では、
- 日本調剤:オンライン薬局サービス(NiCOMS)
- クォール薬局:クオールカード(処方箋事前送信サービス)
- ウエルシア薬局:オンライン服薬サービス
- アイセイ薬局:おくすり予約サービス「おくすりPASS」 など
大手調剤薬局は「資金力」もあるので、上記のような対策が打てますが、個人が経営している薬局だと厳しいかもしれません。とはいえ、「人対人」の部分はいつの時代も変わりません。もともと、日本人は「和」を大切にする民族です。一度、患者に信頼されれば、そう簡単に他の店舗に行ったりはしないでしょう。1人のファンができれば口コミで、新しく患者が来ることなんて日常茶飯事です。患者に最も求められる点は、当然ながら薬剤師としてのスキルは必要ですが、次に大切なのは患者さんに寄り添う姿勢とコミニュケーション力なのかもしれません。
Amazon薬局は脅威?
振り返ってみると、Amazonの参入により町の本屋さんが消えていきました。本は何万冊もあり、これを店舗では用意できません。ネット環境であればそれが可能。自分の欲しい本を探すときも、すぐに検索で見つけられます。本の内容もチェックでき、実際に読んだ本のレビューも見れます。しかも、町の本屋さんで買おうがAmazonで買おうが、値段も一緒。電子書籍もあったりと、Amazonに軍配が上がります。特徴のない本屋は、残念ながら利便性で淘汰される運命です。
yahooニュースより
本の販売、顧客の確保は、成功した印象ですが、果たして薬剤はどうなんでしょうか。「オンライン診療 → 電子処方箋 → Amazon薬局より送付 → オンライン服薬指導」
この流れは、病院や薬局に行かずとも、家にいながら診断から治療まで完結できます。いやいや、すごい時代になりましたね。ネットが生活の一部になっている若い世代は、なかなかの魅力的なサービスではないでしょうか。おそらく若い患者さんから徐々に広まっていくんでしょうね。過去に町の本屋さんがなくなったように、もしかすると、町の薬局がなくなる日が、遠くない日に来るかも?ほんとどうなることやら・・。
Amazonの狙い
では、Amazonの狙いはどうなんでしょうか。患者さんがAmazon薬局経由で処方箋を送付すると、より多くの情報が入手できます。もともと、Amazonは購買履歴などの情報は持っています。そこに健康面の情報が加わると、多くの付加価値が提供できるようになります。
■スマートウォッチと連携して健康管理
最近のスマートウォッチは超優秀!ジョギング記録だけではなく、心拍数、血中酸素、睡眠、ストレスまで測定できるものも増えてきました。Alexa対応のスマートウォッチであれば、Alexaと連動することによって、健康状態を共有し、タイムリーな健康管理できるようになるのかもしれません。「○○さん、最近、ストレス多いようです。リフレッシュしましょう!」とアドバイスされ、AmazonHPを見ると、あなたのおすすめ品に「釣り、アウトドア」の紹介なんてあったりして?購買履歴があれば、自分の趣味もある程度、わかりますもんね。
■ポイントでの支払い
Amazonの買い物することにより、ポイント貯めて、そのポイントで病院や薬局での支払いも可能になったりしませんかね?ポイント支払が可能になれば、まあ、楽と言えば楽なんですが、病院窓口から「支払いは現金ですか?それともポイントですか?」と言われたり?なかなかしっくりきませんが(笑)
■Amazonの購買履歴を分析
患者の処方箋からの情報があるため、糖尿病患者さんであれば、
- おすすめの低糖質、カロリーのお菓子
- 運動療法に最適なジョギングシューズ
- 糖尿病患者さんにおすすめな本ベスト5冊
そんな情報も、購買利益の情報をミックスさせて提案してくれるのかもしれません。「ついでに買っちゃう」ってことはよくありますので、当然、それも狙っているものと思います
最後に
Amazonは私たちの生活にないと困る存在になりました。便利な世の中になるのは大歓迎ですが、例えば、「AI」や今回話題にした「Amazon」に仕事を奪われ、仕事自体がなくなる人が増えていくのでは困ります。消費税を上げるとか、そんな議論がされていますが、どうなるんでしょうか。こんな時代がくるなんて30年前では想像がつかなかったです。あ~、なんだか暗くなっちゃいました。ここまで読んでいただきありがとうございました。